独立してフリーランスとして活動を始めるとき、まず最初に考えておくべき視点の一つに「業界向けを狙うのか、それとも顧客向けを狙うのか」という戦略があります。
それによって案件獲得の方法や発信の仕方、ポートフォリオの作り方まで大きく影響してくる選択だと思います。
業界向けか顧客向けかで変わる評価軸
例えばデザイナーの場合、「業界向け」とは制作会社や広告代理店、フリーのディレクターやプロデューサーといった、同業界のプロフェッショナルからの発注を想定することです。
一方の「顧客向け」は、企業の経営者や異業種の個人事業主、広報/マーケティング担当者など、デザインの専門知識を持たない依頼主からの発注を狙うことです。
この二つは、求められる視点が大きく異なります。
業界向けでは「どのくらいのクオリティで、どれくらいの期間で仕上げられるか」「どんなツールが使えるか」「どんな案件経験があるか」といった、ミクロなスキルや経験が重視されます。専門用語や制作工程の詳細も評価の対象になります。
一方、顧客向けでは「そのデザインがビジネス課題をどう解決するか」「売上や集客にどうつながるか」という、より広い視点が求められます。ツール名や細部の仕様は必ずしも説明する必要はなく、ビジネスへの貢献が伝わることが重要になります。
制作プロセスは両方で使えるが、語り口は変える
制作プロセスなどの説明も、どちらのケースにおいても有効ではありますが語り口や見せ方は変わります。
顧客向けであれば、専門用語はなるべく避け、「課題に寄り添った道筋を立てて進行している」といった仕事への姿勢や誠実性などの大枠を理解してもらうことが大切です。
逆に業界向けでは、「Figmaを使用してコンポーネント管理やデザインガイドラインを策定し、制作を効率化しました」「幾何学的な印象を出すためにHelveticaではなくFuturaを使いました。」「コンポーネント思考での実装と高速化のためにNext.jsフレームワークを用いて実装しました」など、工程や仕様、それらの導入意図を正確に示す方が専門性が高いとみられて信頼されやすいです。
つまり同じ案件でも、顧客向けには「安心感のストーリー」として、業界向けには「技術と再現性の証拠」として見せる。この切り替えができるかどうかで、相手への刺さり方は大きく変わります。
独立初期は「両張り」も一つの戦略
独立初期は、まだ自分がどちらに向いているか、どちらの方が案件につながりやすいか分からないことも多いです。
そのため、最初は業界向け・顧客向けのどちらとも取れる、あるいは2つ作って相手によって使い分ける方針も有効だと思います。実際に案件をこなす中で、自分が得意とする分野や利益率の高い案件の傾向が見えてきます。
ただし、このとき重要なのは「ターゲットによって伝えるべき内容が変わることを意識する」ことです。
無意識にこれらの情報を混ぜてしまうと、顧客向けポートフォリオなのに専門用語だらけで難しそうに見えたり、業界向けの自己紹介なのに成果事例の説明がふわっとしていたりと、どちらにも刺さらない中途半端な形になってしまうことがあります。
同じ案件でも説明を2パターン用意する
おすすめは、一つの案件を顧客向けと業界向けの2パターンで説明しておくことです。
顧客向けでは成果や効果を分かりやすく伝え、業界向けでは工程や仕様を明確に記載します。これによって発信や営業の場面ごとに適切な説明を選べるようになります。
例えば、自分のWebサイトでは顧客向けの説明を掲載しつつ、業界向けの詳細は別の資料としてまとめる。SNSでは相手によって投稿の切り口を変える。これだけでも案件の入り口は広がります。
まとめ:まずは「違いを知る」ことから
フリーランスにとって、業界向けと顧客向けのどちらを狙うかは、案件の入り方や仕事の進め方を大きく左右します。
もちろん、最初から一方に絞る必要はありません。むしろ、経験を積みながら少しずつ軸足を移していく方が現実的ではないでしょうか。
ただ、そのためにも「業界向けと顧客向けでは、求められる評価軸も発信の仕方も違う」ということを早い段階で理解しておくことが大切だと思います。
違いを知り、相手に合わせてアピールの方法を切り替えられるようになる。
これができるだけで、フリーランスとしての活動は格段にやりやすくなるのではないでしょうか。